ガラスの棺 第17話


ルルーシュの棺を暴く。
5年の間王家の墓に眠っていた棺は、暴漢の手によって一度外気に晒されはしたが、再び地の底へ戻されていた。
世界から争いと災がなくならない元凶はルルーシュだと結論づけた合衆国ブリタニアの当主ナナリーは、その棺を再び掘り起こし、中の遺体をまずは質素な棺に移すようにと命令していた。美しい装飾のなされた重厚な棺など罪人にはふさわしくないという理由で発せられた命令だった。
防腐処理がされなかった遺体。
既に腐り果てているだろうそれを、配下の者は命令だからとマスクをし、腐乱した遺体から病原菌が発生している可能性も考え、防護服を纏い、棺を開けた。
だが、開けられた棺には遺体など無く、使われた痕跡しら見当たらなかった。

「棺が空!?そんなはずありません!シュナイゼルお兄様は何処ですか!?あの墓の管理はシュナイゼルお兄様がしているはずです!」

王家の墓に収められていたルルーシュの棺は空だった。
その連絡を受けたナナリーは激昂し、辺りを見まわした。
いつもなら呼べばすぐ近くにいる兄が見当たらない。
そう言ってわめき散らすナナリーを見ながら、コーネリアは眉を寄せた。
一体いつからシュナイゼルが墓の管理者になったと言うのだろうか。
恐らく先日ルルーシュの棺を取り戻したのがシュナイゼルだから、管理はシュナイゼルだと思い込んでいるのだろう。
シュナイゼルは現在黒の騎士団に属している。
正確にはゼロの側近として存在しているのだから、ブリタニアの細かな所までは手を出せない立場だ。先日のような犯罪には黒の騎士団として手を出せるが、墓の警備はまた別の話だ。
そんな事も解っていないのかと、コーネリアはナナリーを見ていた。

「コーネリアお姉さま!シュナイゼルお兄様は!?ゼロは何処ですか!?」
「今日は騎士団の方へ行っているはずだが」

シュナイゼルは現在ゼロの配下。
正確にはゼロの監視があるからこそ生かされている存在だ。
だからいつもここにいる訳ではない。
何もない時は出来る限りここにいたから、常にいると勘違いしているようだが、ずっといるのはコーネリアであって、シュナイゼルとゼロは月の半分はここを離れている。
大体、カグヤではないが、あくまでもゼロは監視者としてこの国にいたのだ。
ナナリーの主張のように、ゼロはユーフェミアの意思を継ぎブリタニアが主導して世界平和に導くなどと考えてはいなかったし、同じく意思を継いだというナナリーのためにこの国にいたわけでも、ナナリー個人を守るためにいたわけでもない。
確かに幼馴染で、ルルーシュの妹だと言う考えはあったから、他の者より甘く見てはいたが、ナナリーのために存在しはいなかった。

「こんな時にですか!?すぐに呼びもどしてください!!」

だが、ゼロとシュナイゼルは自分を補佐するためにいると思い込んでいるナナリーは、まるで自分の部下のように二人を呼び寄せようとした。
一国の代表には、ゼロとその側近を呼び出す力など無いというのに。

「ナナリー、まずは落ち着いたらどうなんだ」

怒りで我を忘れている妹をコーネリアはたしなめるのだが、ナナリーは不愉快そうに眉間のしわを深くした。

「落ち着け?何を言ってるのですか!これは超合衆国の、いえ、皇カグヤからの宣戦布告です!私たちは馬鹿にされているのです!」

カグヤが秘密裏に遺体を運び出したに違いない。
ナナリーはそう断言したが、その証拠が何か見つかったわけではないし、何より先日ルルーシュの遺体を盗み出したのは新興宗教の者たちだった。だから、どちらかといえばその手の連中の可能性の方が高いだろう。

「そう決まったわけではないだろう?」
「いえ、それ以外あり得ません!世界平和のために超合衆国に止む負えず加盟しましたが、このような辱めを受けた以上超合衆国に与するわけにはいきません」

だが、ナナリーはもう誰の言葉も聞き入れようとしなかった。
間違いなくカグヤが手を打ったのだ。
そう思い込み、それ以外の意見など聞こうともしない。

「ナナリー!」
「お黙りなさいコーネリア!この国の当主は私です!」

姉であり、この5年献身的にナナリーの世話をしてきたコーネリアに対し、ナナリーは命令した。

「これはブリタニアに対する侮辱でもあります。今この時より、合衆国ブリタニアは神聖ブリタニア帝国と国名を改め、私は100代目皇帝となります!」

カグヤの、超合衆国のいいなりになどもうならない。
神聖ブリタニア帝国は、あのような小国の小娘に傅く国では無い。
ナナリーはコーネリアの言葉に耳を傾けることなく、反対に自分を叱りつけるコーネリアは邪魔だと自分の傍から排除した。
そしてその日のうちにブリタニアは超合衆国からの脱退を発表した。


「愚かな。あのような小娘が国を治めるから、このような馬鹿げた事をするのですわ」

神聖ブリタニア帝国皇帝として超合衆国の脱退を発表したナナリーをモニター越しに見ながらカグヤはつぶやいた。

「あれほどの大罪を犯したブリタニアを同等に扱って上げたと言うのに、その恩を仇で返す行為。さすが悪逆皇帝の妹ですわね。いいでしょう、超合衆国を抜けると言う事は、私たちの敵に戻ると言う事なのですから、その事を解らせて差し上げますわ」

今のブリタニアなど、ナナリーが支配する国など敵ではない。
完全にナナリーを見下したその物言いに、カレンは密かに眉を寄せた。
本来カレンはカグヤの護衛につく立場では無いのだが、騎士団の古参であり日本人であり女性。何よりゼロの正体を知る者という事もあり、カグヤは何かにつけてカレンを自分の元へ呼び寄せていた。

「大体、悪逆皇帝の遺体を盗んだ者がいるとしたら、今姿を消しているスザクが一番怪しいではありませんか。そんな事にも気付かないなんて、愚かですわね」

そう言うと、カグヤは視線をカレンに向けた。

「カレン、黒の騎士団から信頼できる日本人を集め、今すぐにアッシュフォード学園へ向かいなさい」

ゼロとして動くならともかく、スザクとして動くならその行動範囲は狭い。
何より協力を要請できる相手も少ないだろう。
カレンや、仲が良かった頃のナナリーからの話で、スザクはあの学園での生活を楽しみ、そこで友人も出来ていたと言う。信頼できる友人、その一人があの学園の理事長の孫娘。となればスザクが隠れる場所の最有力候補はそこだ。
そこでなければ枢木神社の跡地や、枢木家ゆかりの場所を探す。
あと可能性があるのはロイドたちの所だが、国外だ。
だからまず、日本国内を探す。
国外へはその後だ。

「え?今すぐ学園へ!?しかも黒の騎士団でですか!?まずは超合衆国の議題として出すべきでは!?」

例え些細なことでも、ゼロあるいは超合衆国の議決があって初めて動く黒の騎士団を、まるで自分の部下であるかのような物言いでカグヤは動くよう命じた。

「この程度の事、わざわざ議題にする必要などありませんわ。超合衆国最高議長皇カグヤの命令です」

ゼロという監視が無い今、彼女を止める者がいなかった。

「で、ですが!」
「私に逆らうつもりでうかカレン?貴方は親衛隊隊長ではありますが、1パイロットで1団員でしかありませわ。その貴方が皇カグヤに意見できるとでも?」

もし逆らうならその地位、無いものと思いなさい!
有無を言わせぬ脅しともいえる命令に、カレンは口を閉ざし頭を下げた。

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